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大曲簡易裁判所 昭和34年(ろ)79号 判決

被告人 佐藤貞之助

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する公職選挙法違反被告事件につき当裁判所が昭和三十四年六月二十日なした略式命令に対し被告人である申立人から同年七月十一日正式裁判請求権回復の請求があつたので次のとおり決定する。

主文

本件正式裁判請求権回復の請求はこれを許す。

理由

本件申立理由の要旨は、申立人に対する本件略式命令の謄本の送達は、昭和三十四年六月二十三日秋田県仙北郡太田村中里字二十町百三十三番地において、同所に居住する申立人の養母佐藤ハルに交付してなされたものであるところ、申立人は右略式命令の謄本の送達された事実を右ハルから知らされなかつたので、これを知らずにいた為め法定の正式裁判請求期間を経過して了い、その後同年七月十一日に至り初めて右の事実を知つた次第であり、申立人が本件略式命令に対する正式裁判の請求を法定の期間内になすことができなかつたのは、全く申立人においてそれまで自己に対し本件略式命令がなされたことを知らなかつた為めであるから、右の事情を斟酌せられ正式裁判請求権回復の請求を許す旨の決定を得たく本申立に及んだというにある。

よつて審案するに、本件略式命令請求事件記録、申立人の各疏明書類並びに証人佐藤ハル及び申立人の各供述によれば、申立人は昭和三十三年九月以来仙北郡太田村中里字二十町百三十三番地を住所と定め、住民登録されているものであるところ、昭和三十四年三月下旬から妻と共に同年四月末頃まで同所に居住したのち、秋田市寺内将軍野二十一番地に妻と共に引揚げ、爾来同所に居住しているものであるが、右引揚げと同時に申立人の養母佐藤ハルがそれまで居住していた右秋田市寺内将軍野二十一番地から前記太田村中里字二十町百三十三番地の申立人の住所に引き移り、以来同所に単身居住しているものであること、当裁判所が昭和三十四年六月二十日なした本件略式命令の告知は被告人である申立人に対しては該略式命令の謄本を送達してなしたものであり、その送達は郵便送達の方法により申立人の住所である前記太田村中里字二十町百三十三番地に宛てゝ発送し、同月二十三日右住所において郵便集配員から申立人不在の為め当時同所に居住していた被告人の養母佐藤ハルに送達書類を交付してなされたものであること、右ハルは右送達書類を申立人が来宅したならば同人に渡そうと考え、これをタンスにしまつておいたものであるが、右送達書類のことに関し、申立人に対し何等告知しなかつたこと、申立人は昭和三十四年六月三日以後同年七月十日までの間その住所たる前記太田村中里字二十町百三十三番地の養母ハルの許に行つたことがなく、同年七月十一日阿部正一弁護士から電話連絡により初めて自己に対する前記略式命令の謄本が右住所に宛てゝ送達されていることを知り、同日本件略式命令に対する正式裁判の申立を為すと同時に本件正式裁判請求権回復の申立をなしたものであることが認められる。そこで以上認定事実によつて考えれば申立人が法定の期間内に正式裁判の申立をしえなかつたのは、結局申立人の責めに帰することのできない事由によつたものと認めるを相当とするから本件正式裁判請求権回復の請求はこれを許容すべきものとして主文のとおり決定する。

(裁判官 柴田円次郎)

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